ピロリ菌
ピロリ菌とは、正式にはヘリコバクター・ピロリ (Helicobacter pylori) といいます。
「ヘリコ」は螺旋(=らせん)のことで、「バクター」は細菌(バクテリア)のこと、そして「ピロリ」は胃の幽門(=ゆうもん、胃の出口で十二指腸に連なる部分)のことです。つまり、ヒゲのような鞭毛(べんもう)を螺旋状に旋回させる、胃の幽門から見つかった、細菌のことです。
ピロリ菌の最大の特徴は、強い酸のある胃の中で生息し続ける性質です。かつて、研究者は「強酸性の胃酸でおおわれた胃の環境では、細菌も生きられないだろう」と考えていました。1800年後半や1900年前半に、ヒトやイヌの胃の中に鞭毛を持つ細菌を発見した人もいましたが、当時の技術ではこの細菌を培養できず、生きた菌の存在を直接証明することができませんでした。
胃の中でも生きられるピロリ菌
しかし、1983年にオーストラリアの病理学者のロビン・ウォレン (J. Robin Warren) と、消化器病医のバリー・マーシャル (Barry J. Marshall) が、ヒトの胃から螺旋状の菌を培養することに成功したのです。そして、胃潰瘍の原因にピロリ菌が関係してることを発見し、2005年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。いまでは、世界中の医師がピロリ菌に高い関心を寄せ研究し、さまざまな病気に関係していることがわかってきました。
胃の粘膜はいくつかの層になり、強酸性の胃液で自らを消化しないように守っています。ピロリ菌は、この中性の粘液の中に生息していたのです。さらに、ピロリ菌はウレアーゼという酵素を出して、胃粘膜中の尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解します。アンモニアはアルカリ性のため酸性の胃酸を中和させ、ピロリ菌は胃の中でも定着し続けることができたのです。